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腕時計特集

阿部泰治のパテック論 ~第42回~ カラトラバについて

2021年1月18日更新

みなさんこんにちは。

最近急激に寒い日が続いていますので、暖かい気持ちになればと半そでの写真を載せてみました。(笑)

、、、

はい。逆に見ているだけで寒くなりますね。しょうもないことをしてしまいすみません。(笑)

さて!コラムはしっかりと書かせて頂きます。

みなさん”カラトラバ”という響きは【 パテックフィリップ 】愛好家はもちろんのこと、時計を好きでいる方であれば一度は聞いたことがあるフレーズであると思います。実はこの”カラトラバ”について【 パテックフィリップ 】論で何度か取り上げようと考えていたのですが、なかなか執筆することが出来ず、、、というよりも、正確に言うと決心をし兼ねたと言うのが正直なところです。

何故、取り上げるのを止めたかと言うと”カラトラバ”の定義があまりにも漠然として、広過ぎると私の中で判断した過去があったからです。今まで数々の”カラトラバ”と名の付いたモデルを見て、取り扱ってきましたが、同じようなラウンド型の時計でも”カラトラバ”と呼ばれないモデルもあり、少々困惑していたのです(笑)

今回はそんな難題である”カラトラバ”について、このご時世に元気を与えるべく、私なりの想いとはなってしまいますが挑戦の意味も込めて書いてみたいと思います。どういった展開、終わりをするのか私にも見当がつきませんが、最後までお付き合いお願いいたします(笑)

初代 ” クンロク ”

先ず”カラトラバ”を語る上で外せないのが、初代”カラトラバ”として1932年に登場した、通称”クンロク”という呼び名で親しまれている「Ref.96」です。実は、結構長いロングセラーモデルで、1970年代前半まで製造がされていたと言われております。


*参照:Sotheby’s

一部のコレクターたちの見解に従うならば、狭義の”カラトラバ”とは、1932年の「Ref.96」”クンロク”に端を発する、ラウンドケースにバーインデックス、そしてドフィーヌ型(ドルフィン)ハンドを備えたモデルとなるようです。加えて側面を大きくえぐり、且つケースサイドと一体化したスレンダーなラグを持っているとのことです。ただ、一部のコレクターにはラウンドケースでスレンダーなラグを持つものが”カラトラバ”、という意見もあり、ブレゲ数字を備えたものなども”カラトラバ”に含めることができるだろうとも言われております。

見た目の分かりやすいところですと、ケースが丸型(ラウンド)である、ケースと一体になった流れるような曲線を描いたフォルムのラグを持つ、ベゼルがフラットなものといった感じでしょうか。

「BAUHAUS」
また「Ref.96」は「BAUHAUS」のコンセプトベースにデザイン化されたと言われていますが、実際にそのデザインを見てみると「BAUHAUS」の基本コンセプトである「非個人的で幾何学的で厳格なことであり、むだを省き素材を研究し、洗練された形」を完全に踏襲していると言えると思います。

「BAUHAUS」とは *参照:wikipedia
1919年にドイツのヴァイマル(ワイマール)に設立された工芸・写真・デザインなどを含む美術と建築に関する総合的な
教育を行った学校です。その流れを汲む合理主義的・機能主義的な芸術を指すこともあります。無駄な装飾を廃して合理
性を追求するモダニズムの源流となった教育機関であり、活動の結果として現代社会の「モダン」な製品デザインの基礎
を作り上げたと言われています。その表現傾向はモダニズム建築に大きな影響を与えたと言われています。

名前の由来
当初”カラトラバ”という名称は【 パテックフィリップ 】の社内でのみ使っていたようです。”カラトラバ”のリューズには十字が施されており、そこで”カラトラバ”と言うようになったと言われております。

社内で使っていた称号をモデル名として世に出すようになったのは、1980年代中頃。但し、一部のコレクターやディーラーの中では、それ以前から”カラトラバ”という名称は使われていたようです。

代表モデル
ともあれ【 パテックフィリップ 】が狭義の”カラトラバ”スタイルを好んだことは紛れもない事実で、アンティークやヴィンテージと言われるところですと「Ref.96」はもちろんのこと、昔としてはケースの大きさがあり人気である

「Ref.570

*参照:Sotheby’s

「Ref.565」

*参照:Sotheby’s

「Ref.2508」(センターセコンド)

「Ref.2509」(スモールセコンド)

*参照:Sotheby’s

通称’’トロピカル’’と呼ばれている「Ref.2526」

*参照:Sotheby’s

「Ref.96」より一回り大きい32mmケースで裏蓋がスクリューバックで防水仕様の「Ref.2545」(スモールセコンド)

*参照:Sotheby’s

「Ref.2555」(センダーセコンド)

*参照:Sotheby’s

日本のコレクターには人気の通称”カラトラバ・オート”「Ref.3403」「Ref.3439

*参照:Sotheby’s

などが代表なところで挙げられるかと思います。

また、狭義の”カラトラバ”からすると、私的には若干デザインが異なると思いますが、アンティーク・ヴィンテージでは馴染みの深い「Ref.3445」も’”カラトラバ”に入るようです。1980年代以降ですと「Ref.96」の流れを汲んでいる「Ref.3796」

*参照:Sotheby’s

日本限定なども出ている、どことなく中性的なデザインで人気を博した「Ref.3923」

*参照:Sotheby’s

といった傑作が存在しております。

先ほどもデザインの流れの違いということで、「Ref.3445」を取り上げておりますが、自分の中でもこれは”カラトラバ”なのか?と思ったのがこのモデルであり、またそのデザインを受け継いているのが「Ref.3520」であると思います。

ケースに対して直線的なラグが採用されているのが特徴で、自分が思っている”カラトラバ”の定義からは外れていると思ったデザインでした。また’’クル・ド・パリ’’と呼ばれる独特のギョーシェ仕様のベゼルも印象的です。このデザインは後に出てくる「Ref.3802/200」「Ref.3919」「Ref.5116」「Ref.5119」に受け継がれていきます。

変わり種モデル
変わり種というところですと「Ref.2572」が挙げられると思います。

*参照:Sotheby’s

35mmのケースに短めで小ぶりなラグがとても特徴的です。1950年代に発表されているモデルですが、このデザインは当時定番化の流れにはなりませんでした。2012年にリバイバルされ「Ref.5123」として発表されております。

また、【 パテックフィリップ 】の創立150周年記念にアニバーサリーモデルの一つとして発表された「Ref.3960」

*参照:Sotheby’s

こちらは”カラトラバ”初のオフィサーケースとして話題となりました。ラグ両サイドの留めネジが特徴的で、ブレゲ数字の文字盤にブレゲ針の組み合わせ、裏蓋が開閉式のハンターケースなのでケース径は33mmと小ぶりですが、厚みがあり可愛らしいデザインとなっております。
1997年に再びオフィサーと呼ばれる”カラトラバ”「Ref.5022」が登場しますが、こちらは「Ref.3960」と違い開閉式のハンターケースは採用されておりませんでした。ブレゲ数字の文字盤にブレゲ針のデザインもありましたが、素材も含めて幾つかのバリエーションがありました。

*参照:Sotheby’s

マイクロローターのムーブメント「Cal.240 PS」を採用した「Ref.5000」は文字盤、針のデザイン、4時位置に配置されたスモールセコンドなど人によって、好みや評価が分かれるモデルであると思いますが、変わり種であったところがヒットにも繋がったようです。2005年に発表され斬新なポインターデイトが特徴的な「Ref.6000」、2017年に超薄型ムーブメント「Cal.240」の誕生40周年として発表され、昨年に製造が終了した「Ref.6006G」へと続いて行きました。こちらは”カラトラバ”としてはケース径が39mmとなり、現状のトレンドに沿ったモデルでした。

現行カラトラバ「Ref.5196」
カラトラバ”の正統な系譜のデザインを受け継いでいるのが現行モデルの「Ref.5196」です。

数々の”カラトラバ”と呼ばれている広義なモデルも紹介して来ましたが、現行のモデルで且つ狭義の”カラトラバ”と言えるのはまさしく「Ref.5196」であり、ドット型のミニッツスケールと、バトン型の立体的なアワーマーカー、そしてドフィーヌ(ドルフィン)針と、ダイヤルはまさしく初代の「Ref.96」を彷彿とさせます。

「Ref.96」と同様、「Ref.5196」も幅の広いフラットなベゼルと、ミドルケースとラグが一体となったケースをもっているのが、よく分かると思います。初代モデルから脈々と引き継がれる”カラトラバ”の本質とは、そのケースデザインにあるのではと思います。

カラトラバ”のケースサイズからすると、ベルトの幅が広いというのも一つの特徴であると思います。「Ref.96」はケース径が31mmと、今となっては小ぶりなサイズではありますが、ラグ幅は18mmありました。同年代の時計と比べると当時としてはかなり太かったと思います。後継モデルにあたる「Ref.3796」もケースサイズは「Ref.96」とほぼ変わらずでラグ幅が同じく18mmありました。

現行モデルである「Ref.5196」はケース径が37mmとなりましたが、ラグ幅は21mmあり、ケースのサイズからするとストラップの幅はあると思います。フラットなベゼル、ミドルケースがラグと一体、幅が広いラグ(ストラップが太い)というのが初代から受け継がれた”カラトラバ”の最大の特徴であると思います。

また、「Ref.5196」のプラチナモデル「Ref.5196P」は

文字盤、針のデザインを見た時にアンティーク好きな方であれば、どこかで見たような気がした方も多かったと思います。自分もその一人ではあるのですが、1940年前後に発表された「Ref.570」に全く同じデザインのものが存在していたのを確認しております。そのようなデザインを採用している点も「Ref.5196」への【 パテックフィリップ 】の本気度が伝わってきます。

まとめ

現行モデルであるカラトラバケースにトラベルタイム機能を採用し、発表当初【 パテックフィリップ 】らしからぬデザインが物議を醸した、カラトラバパイロット・トラベルタイム「Ref.5524」、2019年に新作として発表されSS(ステンレススチール)ケースにパテックフィリップ 初のウィークリーカレンダー機能を搭載し話題をさらった「Ref.5212A-001」と”カラトラバ”は話題の尽きない【 パテックフィリップ 】を代表するモデルであります。

2021年の新作モデルが発表される時にどのような”カラトラバ”が追加されるのかというのを考えるのも面白いかと思いますし、実際に皆を驚かせるモデルが発表されるのを切に願います。

2度目となる「緊急事態宣言」が発令され、家にいる時間がおのずと長くなってしまう中、自分が書くコラムが皆様の良い暇つぶしの一つになっていただけると大変嬉しく思います。

ではまた!

この記事の執筆者
阿部泰治
コミット銀座 店主 銀座著名店で長きに渡り高級腕時計を取り扱い、2016年1月、コミット銀座を創業。 ロレックスやパテック・フィリップをはじめとした希少品やコレクターズアイテムを多数扱う実績を持つ。 時計本来の価値、時価を判断し、委託手数料の業界最安値水準を確立。
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