販売店の見分け方は簡単です。時計雑誌に掲載広告が掲載されている販売店は、すべて並行輸入ショップと言ってしまっていいでしょう。雑誌においてはメーカーがイメージ広告を載せ、並行輸入ショップが販売価格を掲載しています。正規店は、メーカーの直営店やデパートにある、いかにも入りづらい高級な店構えが特徴的です。ピアジェの銀座本店などはドアマンがいて、店内に入ろうとするとドアを開けてくれます。
購入について
正規店と並行輸入ショップの一番の違いは価格です。正規店は常に輸入元が定めた定価で販売します。並行輸入ショップは基本的に定価よりお買い得な価格で購入することができます。ただし第二章でも触れましたが、並行輸入ショップは異常な人気が出てしまった時計については定価より高いプレミア価格で販売します。そうなってしまったら、一見正規店で買うほうがお買い得に思えるかもしれませんが、そんなことはありません。気づいたときには、正規店にその時計の在庫はありません。『3年待ち』なんて状態になっていて、実質買うことができないのです。
腕時計投資の観点からは、正規店で購入された時計も並行輸入ショップで新品で購入された時計も基本的に価値は変わりません。正規店で買われた時計は、保証書に日本の正規輸入代理店の名前や正規店の印が押してあり、いかにもブランド価値が高いように思えますが、投資価値の差は大きくないのです。つまり、評価が同じなら販売価格が安い並行輸入ショップで買ったほうがお得ということです。
新品で買った場合、正規店の保証は輸入元の正規代理店から1年付くのが一般的です。並行輸入ショップにおいての保証は、代理店ではなく並行輸入ショップ自らが修理する内容の保証を1年から3年ほど定めることが多いです。しかし、よほど複雑な時計でない限りめったに壊れないので、保証を使う機会はあまりありません。
2000年代前半までは、正規販売店で購入された時計のオーバーホール料金が半額になるなどの優遇措置が取られており、時計の評価に若干の差がありました。現在、時計メーカーのほとんどが〝世界中どこで買った時計でも同様の扱い〞という政策を取っており、正規代理店で買ったからオーバーホール料金が半額になるということはありません。日本ロレックスは1996年にオーバーホール半額処置を終了、パテックフィリップも2002年頃日本代理店が一新時計からパテックフィリップジャパンに変更され、その際にオーバーホール半額は実質終了しました。
修理について
時計の修理やメンテナンスを行う場合、修理先選びは重要です。正規店で購入した時計でない並行輸入物の時計でも中古品でも、正規輸入代理元に修理依頼をしてください。基本的に、本物であれば購入先を問わず正規輸入代理元はメンテナンスを受け付けてくれます。ただし、一部例外としてフランクミュラーなどは、正規代理店経由の時計しかメンテナンスを受け付けないので、注意が必要です。
正規代理店で修理を行うべき理由は3つあります。
1、修理料金がその他修理店と比べてそこまで高くない。
2、正規代理店で修理を行ったという保証書が発行される。
正規店は時計が本物の場合しか修理を受け付けてくれないので、保証書は『本物の証明』になる。このことは、時計の価値が上がることを意味します。
3、正しい修理が行われる。
正しい修理が行われるということは、時計の価値を下げないことを意味します。時計修理を専門に行う技術者の腕は様々で、高度な技術を要する有名な修理店も存在する一方、粗悪な修理を行う修理店もあるということに注意が必要です。
私は以前、とある並行輸入ショップで新品のパテックフィリップを購入した際、その店に点検の依頼をして状況が悪化したことがありました。点検と言っても、壊れたのではなくて、パワーリザーブの機能が正しく動いているか自分では分からなかったので確かめて欲しかったのですが、担当者から「中身を分解してメンテナンスしておきました!」と得意気に告げられ戻ってきた時計は、日差が大きくなっていました。機械式時計はクオーツと違い、一日に15秒ほど時間がズレるのは当たり前なのですが、パテックフィリップは5秒ぐらいしか日差がありません。点検に出す前の私のパテックフィリップも同様でしたが、メンテナンスに出した後は日差が30秒に。日差5秒に戻すためには、パテックフィリップの正規修理センターでオーバーホールを行うしかなく、もったいないので日差30秒のまま使用していました。
腕時計投資のすすめ 74-78Pより抜粋 |