不動産投資や、バブルの頃行われたスーパーカーへの投資において、気をつけなければならないのが維持費です。不動産の場合、持っているだけで毎年必ず固定資産税がかかりますし、修繕積立金や保険料も考慮しなければなりません。車も駐車場代はもちろんのこと、乗れる状態にしておくためには毎年の自動車税、車検、車検のための整備費用が発生します。そういった経緯から、投資にはメンテナンス費用を考慮する、というのが一般的で、多くの人がモノへの「投資」には必ず維持費がかかると考えているようであります。
さて、投資用腕時計を購入して売却するまでにかかる維持費を考えてみましょう。まず、税金面ですが、腕時計には所有しているだけで毎年かかるような税金はありません。
次に、腕時計の維持費として最も気になるのがメンテナンス費用でしょう。腕時計のメンテナンスというとたいていの場合、オーバーホールを指します。そこで、インターネットや雑誌などでオーバーホールの頻度について言及されている記事を見ると、よく「3年から5年に1回はオーバーホールしたほうがいい」と書いてあります。私はこれに反対です。
あえて、はっきりと言いますが、オーバーホールは不具合が生じるまでする必要はありません。オーバーホールとは分解掃除です。つまり何十から何百というすべての部品を分解して掃除する作業がオーバーホールなのです。すべての部品を分解する作業、というのは壊れた機械を元の状態に戻す最終手段です。たとえば、車のエンジンは30万キロ以上走ったようなもの(やロータリーエンジン)でないとオーバーホールは一般的ではありません。さらに車の場合、オーバーホール料金が高いので日常的なメンテナンスのオイル交換等が有効なのです。
一方、腕時計のメンテナンスの場合、常にこのオーバーホールという最終手段が提案されます。逆に言えば、それほどメンテナンスする必要性がないのです。もちろん、この意見には時計修理店さんからの批判があると思います。しかし、私個人の経験では、オーバーホールの必要性は感じません。
私の母が15歳の時に買ってもらったロレックスを私がオーバーホールに出したのは母が50歳の時でした。不具合があったわけではないのですが、長年使っているので一度ぐらいオーバーホールしてもいいのではないか、と日本ロレックスに持っていったのです。この時計は購入してから35年もの間、日常的に使ってきたものです。私の記憶では、私が10歳ぐらいの時、つまり25年間オーバーホールしていない状態で、母はこの時計をつけてオーストラリアのプールで泳いでいました。そのようにハードに使っていた時計ですから、見積依頼でどのような金額になるのかと思いきや、提示されたのは5万8000円。35年メンテナンスをしなくても、この金額だったのです。また、以前私が購入した4桁リファレンスのヴィンテージサブマリーナ(1680)を保証書発行のために日本ロレックスにオーバーホールに出した際も同じような金額でした。この時計についても、風防が新品当時のままだったことから、一度もオーバーホールされたことがないと予測できる状態でした。
仮に、5年に1回オーバーホールしたとしましょう。35年でかかった費用は40万6000円。オーバーホールをしていても、していなくても時計はきちんと動いています。35年で5万8000円ですませるのか40万円支払うのかは、時計のオーナー次第ですが、定期的なオーバーホールは私には全く無駄なメンテナンス費用だと思えるのです。
結論としては、投資用腕時計を購入した際にかかる維持費はありません。車の個人売買の場合、次の所有者に手渡した瞬間にエンジンがかからなくなるなどのトラブルが生じるケースがありますが、腕時計の場合、昨日まで動いていた時計がいきなり動かなくなるということは稀です。仮に万が一そうなってしまったとしても、オーバーホール代金でその費用は済んでしまいます。
ほとんどの腕時計の場合、突然壊れることはありません。繰り返しますが、腕時計にかかるメンテナンス費用はない、と思っていいのです。
腕時計投資のすすめ 224-226ページより抜粋 |