ETA2010年問題をきっかけとしてなのか、ブランディングの一環なのかはわかりませんが、近年多くのブランドが自社ムーブメントの開発に力を入れています。
そして、それは比較的安い価格帯を中心としているオメガやタグホイヤーにも該当。
しかし、自社ムーブメントが必ずしも良いかというと、一概に「良い」ということにはならず、信頼性(故障のしづらさ)やメンテナンス性を考慮すると、長期に渡り使われてきた出来の良いベースムーブメントを超えるのは難しい、という見方もあります。
特に、最近自社ムーブメントを造り始めたブランドの機械ほど不安だと感じるのは自然なことでしょう。
とはいえ「自社ムーブメントの存在」ということが、時計ファンに対してブランディングの効き目があることも確か。
そして、自社ムーブメントに価値を見出すということがあるならば、マニュファクチュールのブランドこそ最も良いということになります。
実際、ロレックス、パテックフィリップはマニュファクチュールのブランドとして世界中で人気です。
また、ジャガールクルトはオーデマピゲやブレゲのベースムーブメントに使われるほどのマニュファクチュールとしても有名。
最近自社ムーブメントを造り始めたメーカーより、長らく自社ムーブメントを造り続けているということに対する価値も大事な要素です。
では、ピアジェはどうかというと、昔からマニュファクチュールの時計ブランドなのに全く評価されていないのです。
ピアジェ初のステンレススポーツウォッチとしてデビューしたこのアップストリームは、504Pという歴史あるピアジェの自社ムーブメントが採用され、さらにブレスレットの仕上げも非常によい時計。
つまり、どの角度から観ても「納得」な時計にもかかわらず、この5年でほぼ相場が変わっていないという存在なのです。
本記事の価格比較
腕時計 | 状態 | 期間 | 2012年3月 の安値(ヤフオク) |
2017年4月 の安値(楽天) |
変動額 | 残価率 |
---|---|---|---|---|---|---|
ピアジェ
アップストリーム 銀文字盤 自動巻 |
中古 | 5年 1ヶ月 |
¥395,000 | ¥438,000 | 43,000 | 110.89% |
このアップストリームは、ピアジェにおける三雲スポーツ対策として2001年にデビュー。
三雲スポーツといっても、70年代からあるロイヤルオークやノーチラスではなく、90年代に出たカジュアルなアクアノートやオーバーシーズを意識したモデルです。
ピアジェには、スポーツを担う「ポロ」が存在しますが、それは70年代に登場したロイヤルオークやノーチラスのライバルという位置。
当時、ロイヤルオークやノーチラスがステンレスだったのに対し、ポロは金無垢のみのラインナップだったため「より豪華」な存在となっていました。
そして、90年代にパテックフィリップがアクアノートを登場、ヴァシュロンコンスタンタンがオーバーシーズを登場させ、70年代に登場したモノよりカジュアルな方向の三雲スポーツという存在が確立されます。
そしてその「よりカジュアル」なスポーツウォッチという役割としてピアジェが送り出したのが、このアップストリームなのです。
アップストリームが登場した2001年にはポロもモデルチェンジされましたが、金無垢のみというラインナップは変わりません。
つまり、この頃のピアジェにおいて、ノーチラスをより高級にしたのがポロ、アクアノートのようにカジュアルなのがアップストリームという位置づけだったのです。
これは非常に分かりやすいラインナップですが、ピアジェ自体が全く注目されていないため、だれもこの構成に着目しませんでした。
そして、ピアジェ自体も自ら主張するということが“邪道”であると考える体質なため、ポロとアップストリームの立ち位置を代弁してもらうマーケティングのようなことはしなかったのです。
そんな事情により、ほぼ注目されなかったアップストリームは、買いやすいピアジェであったにも関わらず、人気モデルとなることはなく、ピアジェは早々にシリーズを廃止。
すぐにモデルチェンジをしたり、シリーズをやめてしまうというのは、ピアジェの良くない点でしょう。
昨年2016年には、「ポロS」というステンレスモデルが新しく登場しましたが、ノーチラスに似ていると海外ジャーナリストにも指摘される外観は、「ポロ“S”」という紛らわしい名前も相まって、豪華金無垢モデルである「ポロ」自体のイメージも下げてしまいそうです。
良いものを作るピアジェというブランドに対し、もっと多くの時計ファンが注目すれば、ポロSのようなモデルが作られることは無かったと感じます。