年次カレンダーという画期的なモデルがデビューしたのは1996年のことですが、「グランドコンプリケーションでない永久カレンダー的な機能」、さらにそれをパテックフィリップが出した、ということに対して驚いた人は多かったのではないでしょうか。最初に年次カレンダーが出た際、その機能だけで大きなインパクトがあるため、多種多様なバリエーションが無いことは当然のように感じ、そのほぼ唯一という存在だった5035はとても注目度の高いモデルだったといえるでしょう。
それは、第一次腕時計ブームだった2000年前後という時代においても変わることなく、2000年代前半までは「年次カレンダー」といえば5035を指すという印象でした。
ただ2003年、そんな年次カレンダーに異変が起こります。
ドイツの腕時計販売店であるWEMPEの125周年記念モデルとして5125が限定的に発売されたのですが、そのモデルは年次カレンダーとしては初となる「小窓カレンダー」というデザインを採用していたのです。
この小窓タイプのカレンダーとムーンフェイズの組み合わせといえば、グランドコンプリケーションの永久カレンダー3448などがありますが、5125はそれらモデルに影響を受けたといえるでしょう。
そして、2006年には通常ラインナップの年次カレンダーにも小窓タイプの5396が追加されました。
2006年といえば、既にノーチラスにコンプリケーションモデルが存在していた時期ですが、この時期においてノーチラスの年次カレンダーモデルは存在していませんでした。
2005年以前の約30年間は、ノーチラスには3針モデル(2針など含め)しかありませんでしたが、今となっては永久カレンダーモデルも存在し、コンプリケーションのノーチラスはごく普通に存在するという印象があります。
そんなノーチラスに年次カレンダーが追加されたのは2010年になってからで、その際5396にも新しいデザインの文字盤が採用されています。
その5396の文字盤デザインはWEMPEモデルを彷彿とするデザインで、比較的人気の高い存在だといえますが、ノーチラスの年次カレンダーにも同じ趣旨のデザインが採用されています。
小窓タイプのカレンダー表示とムーンフェイズという要素が、ノーチラスのイメージそのままに追加された印象の5726/1A。「ノーチラス+年次カレンダー」というその内容は、夢のようなモデルというように感じた方もいるのではないでしょうか。
そんな5726/1Aは、“ノーチラスの年次カレンダー”というだけあって、デビュー当初から新品実勢価格も高い水準ですし、中古相場も相対的に高い水準が当たり前という存在でした。
ちなみに、高いといっても2016年頃まで300万円台で中古が購入可能だったのですが、2017年には400万円台となっています。
そしてそれから1年経った2018年の今、さらに100万円以上の値上がりとなっており、中古でも500万円台という水準に達しています。
しかし、このモデルについて「値動きの優秀さ」をどう捉えるかは、考察し甲斐が点だといえます。
本記事で参考とした中古腕時計
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本記事の価格比較
腕時計 | 状態 | 期間 | 2017年6月 の安値(楽天) |
2018年6月 の安値(楽天) |
変動額 | 残価率 |
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パテックフィリップ
ノーチラス 5726/1A-010 |
中古 | 1年 0ヶ月 |
¥4,224,000 | ¥5,388,000 | 1,164,000 | 127.56% |
1年前に400万円台前半だったのが、今や500万円台前半。
これだけ見ると「凄い現象だ」と思ってしまいますが、「ノーチラスが500万円台」ということは、この年次カレンダーに限らず、他のいくつかのノーチラスには既に起こっている現象です。
そして、それら500万円台のモデルこそ、かつてこの年次カレンダーより安かった5711/1A-010や5712/1A-001です。
5711/1Aは人気モデルとはいえ3針モデルです。かつての常識であれば、3針より年次カレンダーが安いということは考えられないでしょう。
また、5711/1A-010と同水準に位置することもあるコンプリケーションの5712/1A-001に関しても年次カレンダーより高い水準となっているのです。
ですから、年次カレンダーの5726/1Aは、1年で約100万円という値上がりでも、ノーチラスの中では「相対的にお買い得に位置する」という複雑な状況となっているのです。
なお、5711/1A-010や5711/1A-001に共通するのは青文字盤が採用されているという点。青文字盤という要素は今や「年次カレンダー」というメカニズムを凌駕するほどの強い要素となっているのだと感じます。