腕時計への思い入れは人それぞれ。
その時計を見て思い浮かべる顔も、時計の数ほどあるでしょう。
あの人の大切な腕時計とは。その裏にある、大切な思い出とは――。
著名人の腕時計への思いを語っていただきます。第一回目は、俳優・タレントの毒蝮三太夫さん。
カルティエのサントスガルベは妻とのペアウォッチ
「いつもつけているのはロレックスなんだけど、今日は修理に出しちゃってね。それで、これをつけているんだ」
そういって見せてくれたのは、奥さんとのペアウォッチだというカルティエのサントスガルベ。1990年頃のモデルだ。
「20年か30年くらい前、結婚何年目かの記念で、妻が働いていた三越本店に行って買ったんだ。当時はバブル真っ盛りでね、ロレックスやオーデマピゲよりカルティエが流行っていたんだよ。記念だからと、妻がわざわざ頼んで、それぞれの時計にファーストネームのイニシャルを刻印してもらっているんだけど、こういうのがあると落としたり、粗末にできないよな」
刻印ももちろんのこと、素材も金とステンレスのコンビでできているため、結構値打ちのあるものである。それを聞くと毒蝮さんは、「そうだったの」と驚く。
「そういえば一度修理に出したとき、『つけないともったいない』と言われたね。でも、これは日付を手巻きで合わせないといけなかったり、手間がかかるから20年以上ずっとしていなかったんだ。今日はたまたまいつもしているのが壊れたから陽の目を見ているだけ。……そうなんだ、そんなに値打ちがあるものなんだ。じゃあつけないともったいないよな。でも妻のほうもつけていないんだよ。それどころか記念に買ったことも忘れていて、自分の時計は『どこにあるかわからない』と言っていたね(笑)」
「これも高いの? 知らなかったな」
次に「これ、面白い形をしているから持ってきたんだ」といって取り出したのは、写真のオーデマピゲ。素材は金。扉を開くと文字盤が見えるタイプの珍しい形だ。
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「これは、僕のファンの方が、ロレックスやパティックと一緒に『珍しいものだから』とプレゼントしてくれたもの。え? これも高いの? そんなに高いの? 知らなかったな。でも誰も一目見てオーデマピゲとは分からないんじゃない? これをパーティーにつけていったら『チョコレートつけてるの?』と聞かれるくらいだから(笑)」
続いて「これも面白いから」と持ってきた時計を見せてくれた。文字盤に「MAM」の文字とマムシのイラストが刻印されているオリエンタルの時計だ。
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「僕のファンの方が誕生日に贈ってくれたんだ。メーカーに頼んで、わざわざ刻印を入れてくれたそうだよ」
人に見られる商売だからこそ、それなりのものを
どの時計もかなりの値打ちがあるものだが、そうとは認識していなかったという毒蝮さん。聞けば、毒蝮さん自身、あまり高級ブランドに興味も執着もないそう。実際、日常使いのロレックス以外、高級腕時計はもっぱら頂き物が多く、人から欲しいと言われたらパティックフィリップでも惜しげなくあげてしまうほど。
「こんな俺だからか、『いいものを身に着けてください』と言って高価なものを贈ってくれるのかな。いつも使っているデュポンのボールペンも頂き物だしね。オーデマピゲなどをくれたファンの方には、『旅館などでお金が足りないときなど、何かあったときにこれを置いておけば恥をかかないし、いくらかになる。それくらいのを持っていてください』と言われたんだよ。確かにそれは一理あるよね。芸能人は、『ラーメンを食べた時でもチャーシュー麺を食べた顔をしろ』と言うくらい、見た目を気にしろと言われる。人に見られる商売だから、貧相には見られないようにしろってことだよね。クラブに行って、エルメスのスカーフを見るとお姉さんも接客が変わるしね(笑)」
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高価値なものを身に着けたほうがいい。そう思いながらも、一方で、機能性も追求する。
「高額なものだと、大事に扱わざるを得ない。そういう使い方もいいと思うけど、置き忘れても惜しくない、千円や二千円の腕時計も気軽に使えていいよね(笑)。
僕はバッグでもベルトでも使いやすさを重視する。だから、普段使っているのはどうしてもロレックスになってしまう。ロレックスは文字盤が大きくて見やすいし、丈夫。それに、汗をかいても革と違って色あせないベルト素材なのも使い勝手がいいよね。ロレックスだけでも5~6本は持っているんじゃないかな。もっと年を取ったら、頂いた革のベルトも使って行こうと思っているけど、まだまだ先かな」
80歳にして現役感があふれる毒蝮さん。「寿命時計というのがあって、残り時間が出るのがあったら面白いね」というが、当分元気な毒蝮さんにお目にかかれそうだ。
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